「雨の日の女」について

好きな歌。
ボブ・ディランがどういう意図でこの歌詞を書いたのか、正確な解釈は知らない。

個人的な解釈として、「日常で遭遇する不運や他者の悪意、挫折などの残念な体験に対して、そんなことは気にする必要がないし、傷つく必要もない、ということを皮肉っぽく、暖かく歌った歌」かなと思っています。

他の人の解釈を調べる前に、自分の考えをまとめておきたくて、この記事を書きました。

歌詞は 公式ページ にあります。

この歌が歌っていること

日々生活していると、様々な辛いことに遭遇します。
備えていてもいなくても、タイミングを問わず、誰彼かまわず、大きな問題も些細な事件も。

何か辛いことがあると、「もしかして自分に責任があったのでは」という気持ちになって落ち込んでしまうことがあります。
もっと上手くできたのではないかとか、軽率すぎたのではないかとか。
ただ、本当のところは、その時点の自分では予測できなかったことも多いですし、済んでしまったことに対してくよくよしても意味がないことも多いです。

また、不当な攻撃を受けると、怒りや憎しみでそれに応えようとする場合もあります。
自分が被った損害を相手にも味あわせたい、償いをさせたい、怒っていることを表明することで相手の態度を改めさせたいなど。
ただ、多くの場合は、やり返したところで実質的な意味はなく、怒りの感情そのものが自分自身へのダメージになるように感じます。

そういったときに、「辛いことは不可避だし、責任を感じることはない」という気持ちにさせてくれる歌だなと思っています。

自分がいいことをしていても、何もしていなくても、自分のために行動をしていても、悲しい時でも、努力をしていても、大したことをしていなくても、何気ない日常を過ごしていても、存在しているだけでも、心を開いても、楽しんでいても、どんな時でも不幸は襲ってくる。
確かに最悪だけど、もう仕方がないし、楽しくやろうぜ、と。

歌詞の面白いところ

石を投げつけられるシチュエーションの羅列に規則性があったりなかったり、脈絡がはっきりせず、乱雑なところが良い。
歌詞が予測できなくて楽しいという面もあるし、実際に辛い体験をする場合も予測なんて立たないという点で歌詞の内容に沿った構成になっている。

石をぶつけられることに対して、ぶつける人間が悪いとか、抵抗しようというのではなく、無化しようという態度が皮肉っぽくて良い。

誰が石をぶつけているのか

「石をぶつける」というのは、普通は、特定の誰かが別の誰かに対してすることです。
ただ、この歌詞では、石をぶつけているのは「彼ら」とされており、特定の誰かが悪意を持って行っているという感じではありません。
「世間」と解釈しても良いと思いますが、衝突が起きる可能性のある相手は不特定にたくさんいる、くらいの感じかなと思います。

石をぶつけられるとはどういうことか

もちろん、文字通りに石をぶつけているという意味ではないでしょう。
心に傷を負うような体験をしたという意味かなと思います。

悪意を持って石をぶつけているのかは定かではなく、好意を持って行ったことが自分にとっては石をぶつけられているように感じるという状態も含まれているように思います。
歌詞には明確には書かれてはいませんが、誰かが石をぶつけている場合だけでなく、偶然発生した不幸なども範疇に入っているように思います。

「自分が傷つくような事態全て」のことを「石をぶつけられている」と表現しているのかなと捉えています。

誰もが石をぶつけれらるべきとは、どういう意味か

"must get" が「されるべき」なのか「されるに違いない(される運命)」なのか、英語の文法的な取り扱いには自信がありません。

いろんな解釈があると思いますが、以下の 2 つが相当しているかなと思います。

  1. 「非難されるところがない人間なんていない(石をぶつけられる理由がある)」
  2. 「非難されるところがない人間でも石をぶつけられるものだ(理由なんてない)」

「ぶつけられるべき」という言葉からは 1 が想起されます。
「非難されるところがあろうがなかろうが、石をぶつけられるものだ」というよりも積極的に「石をぶつけられる理由がある」と言っているように思います。

ただ、「皆が罰せられるべき存在だ」といったような後ろ向きの意図だけの歌詞ではないように思います。
歌詞の大半では、理不尽に石をぶつけられる例が歌われているので、2 の解釈の方が正しそうです。

ただし、「非難されるところがない人間」のことだけを歌った歌でもないと思います。
もしそうであれば、ほとんどの人はこの歌詞が歌っている人物から外れてしまいます。
直前に、自分が一人だとは思っていないとあるので、この歌が歌っている対象は我々全員です。

結論としては、2 がメインで、さらに 1 なニュアンスで捉えています。

曲名について

「雨の日」は、惨めな思いをしていることを意味していると考えて問題なさそうです。

雨は自然現象。
歌詞の内容が、悪意を持った特定の個人による攻撃についてではなく、偏在していて防ぎようのない不幸についてであることを意味しているようにも感じられます。

本来は、冷たい雨に打たれている状態を歌っているのだと思いますが、なぜかはわかりませんが、夏の日の雨のように、ぬるい温度の雨の印象があります。
歌の雰囲気がおおらかだからかもしれません。
暖かい雨 = 涙だからかな。

なぜ女性なのかはわかりません。
社会的な立場の弱い人間を意味しているのかなと思いますが、それはステレオタイプ的な見方かもしれません。

主題のブルースっぽさ

「不幸を歌い飛ばす」、「解決を諦めている」のがブルースっぽいなと思いました。
ブルースに詳しいわけではないので、勘違いかもしれませんが。

Little Girl Blue

雨の中の女性という点で、"Little Girl Blue" と共通点を感じます。
個人的には、コインの裏と表のような背中合わせの歌だなと思っています。

著作権について

  • この記事では、歌詞の翻訳はしていません
  • 歌詞への言及についても、正当な引用の範囲であると認識しています

内容に関係ない補足